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「何を云うのだね、茜。穏やかでないことを口走るものじゃありませんよ。言葉には 魂があるのだから、無責任に云ったことでも本当になってしまう怖いものなんだよ」

有吉佐和子『一の糸』より
(ポスターと『一の糸』から抜粋した上の言葉は無関係のものです)


文楽の楽しさは、三つのアートが織りなす極上の世界にあります

大夫さんの言葉による語り、三味線さんが奏でる音色の語り、そして人形遣いさんが魂を吹き込む人形たちの動き、その三つのアートが迫真のコラボレーションで、時を越えて、わたしたちの人生の機微を色あざやかに織り上げます。

古典芸能は難しいと思い込んでいらっしゃるあなたに、庶民の芸能、大阪で生まれた文楽の面白さをお伝えしたいと思います

まず、義太夫で語られる言葉がよくわからない、というご心配がありますね。
文楽劇場の座席からよく見える舞台正面上方に、字幕が出るスクリーンがあります。ときどきそのスクリーンに目をやりながら、舞台を鑑賞してみてください。「案ずるより産むが易い」の取越し苦労だったなと、きっとニッコリなさるはず!

また劇場に入るまえにイヤホンガイドを借りていただくと、話の内容がさらによくわかります。あらかじめ、演者の名前や物語の各場の詳しい説明が掲載されたパンフレットをお求めになって、舞台が始まる前に読んでおくというのも、良い方法です。
私ごとで恐縮ですが、昔、はじめて道頓堀の朝日座で文楽を見たときに、十代の自分が強烈に感じたのは、その芸術の純粋さでした。ある役を演じるためにつくられた人形は、舞台の上で命を吹き込まれ、笑い、泣き、また苦しみますが、それは生身の人間の身体では不可能な、純粋な感情表現とでもいいますか、観ている私には、滑稽すぎ、悲しすぎ、また苦しすぎました。それは、言ってみれば、昇華された感情の芸術でした。人形遣いの手を離れたとたんにただの命なき物体に戻る人形たちが、いとおしく思えました。

ちょっとここで『文楽の男−吉田玉男の世界』(淡交社)から、故吉田玉男さん(人間国宝)の言葉を引用させていただきます。「ともかくこの仕事ではね、二十歳代というのは、もうがむしゃらにやる時期、三十代になってきたら、自分は女形(おんながた)で行こか、立役(たちやく)で行こか、と方針を立てて、四十代になってきたら今度は役の調整や。五十代になって初めてお客さんに見てもらえる芸ができるわけや。道は遠いけどね」 「(俊寛が瀬尾に切りつける場面に関して)昔から大刀でやってはいるんやけど、今度いっぺん小刀抜こうかいなと思ってます。瀬尾太郎は、あれはひとかどの侍なわけで、俊寛が瀬尾の大刀を抜くんの、抜くまでにとがめられるんじゃないかと思ってね。小刀ならすっと抜けるけど、大刀をすうっと抜くまで、ひとかどの侍がじっと待っているのもおかしいと思ってね。… 理屈で考えたら、不自然でね。武術の心得のない僧である俊寛が「どうぞ許してください」と、たまりかねて、ガッと抜くわけだから、小刀のほうが抜きやすい。… 相手は侍だし。だから、今度いっぺん小刀抜こかと。 どうしても刀持ってからが侍になりやすい。侍にならんように、侍の刀使いとはちがうように、それは注意してます。大刀持つと剣芯が下がる、下げるように、フラフラしてるような感じで遣う」(演目は『平家女護の島』)

文楽の人形の何よりの特徴は、「三人遣い」といって一体の人形を三人で操るという難しい様式です。人形の首(かしら)と右手を遣うリーダーが主遣い(おもづかい)と呼ばれる人です。左遣いの人は左手を担当し、足遣いの人は足を担当します。人形遣いの修行は、まず足を遣うことから始まります。一人前の足遣いになるのに10年かかると言われます。

「こうやって性根(しょうね)をぐう〜と人形に送る!」と熱く語ってくださった故吉田文吾師匠のお言葉に衝撃を受けました。ときに10キロを超える重さの人形を左手一本で支え持ち、足元も確かに、生きている人間のように演じさせるその難しさは、私などの想像の及ばないところです。 輝かせるのは人形。自らはスポットライトとは無縁というその芸の世界に、粋を感じるファンも多いと思います。

さて、大夫さんと三味線さんの芸のすばらしさにも、きっと感嘆されることと思います!(^^)! ただ一人の鍛え抜かれた声が、何人もの登場人物の思いを伝え、ただ一つの太棹三味線の重厚な音色が、物語の緊迫と人々の情感を運びます。そのたたずまいの美しさに、芸に命をかける男たちのすがすがしい心意気を感じます。

文楽の三味線は、長唄などの細棹三味線、常磐津や清元の中棹三味線と比べて、ずっと大きく重く、棹(さお)が太いです。三味線は、地味ですが、文楽という芸術の中で非常に重要な役割を担っています。三味線さんは何も見ずに弾きます。私などは、その無言の真剣な表情を見るだけで、感動します(^_-)-☆ 横にいる大夫の呼吸に合わせ、間を読み、たがえることなく撥を入れるその姿は、本当に素敵です。 ズンと心に響く三味線の音色を堪能したい方は、舞台に向かって右前方あたりの座席をお求めください。

次に大夫さんですが− 大夫さんはお腹からの声が十分に出るように、やや不自然な座り方をしています。前から見ると正座しているようにしか見えませんが、実はお尻の下に低い腰かけ(尻引)をおき、両足のつま先を立てて座っています。また懐には重しの小さな袋(オトシ)を入れ、身体の重心を下げる工夫をしているのです。 それはそれは表情豊かに(^0_0^)物語を語る大夫さんの、そのお顔もときどき見てくださいね。何十年もの修練を経てやっと自分の声が出るのだと名人はおっしゃいます。それぞれに艶やかなそのお声を、楽しませていただきましょう。

それから、舞台待ちの時間には、どうぞ一階展示室をのぞいてみてください! 演目にゆかりの展示品、その他さまざまな展示品がございます。そこでボランティア解説をしておられる応援団員の方々に、どうぞ気楽に何でもお尋ねになってみてください。

なにはともあれ… 百聞は一見に如かず。ぜひ一度、文楽劇場でじかに体験なさってくださいませ。

国立文楽劇場のホームページで公演スケジュールや演目のことがわかります。 どうぞアクセスしてみてください→http://www.ntj.jac.go.jp/


*英語で読まれる人はいないかもしれませんが、念のため、ちょっとご紹介*

The superb world of Bunraku is woven up of three different atrs: Joruri (Gidayu) -chanting, Shamisen, and Nigyo-tsukai or Manipulating of Puppets. Joruri or Gidayu is a unique style of narrative-chanting performed by Tayu. Shamisen is the name of the art and also of the three-string musical instrument. Ichi-no-ito (the first string = the thickest string) is made up of 2,000 pure-silk threads. Shamisen creats a kind of musical narrative as well as the background of each scene. The depth and dignity of the sound comes from the large and heavy body of the instrument. Please pay attention to the very first sound of Shamisen! Ningyo-tsukai pleases our eyes with incredibly real (and surreal) performance of puppets on the stage. A Bunraku-puppet is manipulated by three men, which is unique in the world and is extremely difficult! Please enjoy the world of Bunraku the mastery of the artists in each field harmoniously presents for you. It is one of the traditional Japanese stage arts with more than 300 years’ history, but you will find there universal dramas of human beings delivered to you in a very touching way. At the theater please take advantage of the English Earphone Guide service available at the right-hand counter on the second floor, and your worry about the story will soon disappear. Seeing is Believing!! Please access the theater homepage: http://www.ntj.jac.go.jp/




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